第一回世界架け橋ユースフォーラム / 舛本直文氏・高田朋枝氏
第一回世界架け橋ユースフォーラム / 舛本直文氏・高田朋枝氏

第一回世界架け橋ユースフォーラム / 舛本直文氏・高田朋枝氏

2021年3月20日(土)、Auniversityは「世界架け橋ユース・ジャパン」の協力団体としてオンラインセミナーを開催した。
テーマは「ポストコロナ時代の新しいオリンピックのかたちについて」。
ゲストとして東京都立大学客員教授の「舛本直文氏」と、東京ゴールボール連絡協議会理事である「高田朋枝氏」をお招きした。

 

舛本直文氏はオリンピック教育・研究やスポーツ哲学を専門とされ、オリンピズムの伝道師としてオリンピック・パラリンピックの真の意義について全国で講演活動をされている。
高田朋枝氏は幼い頃に患った網膜色素変性症によって視力が低下し明暗がわかる程度となったが、ゴールボールと出会って2008年に北京パラリンピック出場を果たし、現在はゴールボールの普及活動に専念されている方だ。

 

■1部 舛本氏による基調講演
まず舛本氏は東京五輪について様々な議論が生じていることに触れた。
今回の東京五輪は復興五輪といっているが、東日本大震災からの復興か、コロナからの復興か?多様性と調和というがそもそも調和とは何か?無観客観戦で開催するというがそれは平和の視点といえるのか?オリンピックは世界最高のスポーツ大会だという人もいるが、それではワールドカップなどの他の大会と何が違うのか?
そうして、これを機に私達はオリンピック・パラリンピックの意義について原点回帰すべきだと話した。

ではオリンピック・パラリンピックの価値とは何なのか?
舛本氏はスピードスケート選手の小平奈緒選手の映像を私達に見せてくれた。平昌五輪。小平選手は初の五輪金メダルが、ライバルである韓国の李相花選手は五輪三連覇がかかっていた場面だった。
先に小平奈緒選手が走行してオリンピック新記録を出した。金メダルを確信した応援団が大いに沸いたが、彼女は静かにしてほしいとジェスチャーをした。次の選手たちが集中して走れるようにという配慮だった。次の組で韓国の李相花選手が走り、僅差で銀メダルとなった。小平選手は涙を流す彼女を支え、「相花をリスペクトしている」と健闘をたたえた。
舛本氏は、小平奈緒選手が見せたフェアプレー精神、そしてライバルである韓国の李相花選手との間で見せた友情を指し、これこそがオリンピック・パラリンピックの価値だと語った。
オリンピックの価値、すなわちオリンピックバリューには「Excellence(卓越)」「Friendship(友情)」「Respect(敬意・尊重)」の3つが掲げられているが、まさに彼女たちはスポーツを通してフェアプレー精神を育み、互いの技術を高めあい、国を超えて友情を築いたと。

そして舛本氏がより多くの人に知ってほしいと願う「オリンピズム」についての話をされた。オリンピズムとは、オリンピックの根幹となる精神である。
日本オリンピック委員会ではオリンピズムについて「スポーツを通して心身が向上し、文化や国籍など様々な差異を超えて友情、連帯感、フェアプレーの精神をもって理解しあうことで、平和でよりよい世界の実現に貢献する」としている。
つまり、スポーツを通して心身の調和がとれた人を育てる「教育的思想」と、その人々が異文化理解を深めることによって「世界平和」の要素が根本にあると。
オリンピックやパラリンピックというと、メダルの数やお金の話ばかりがニュースになるが、こういった根本が真の価値なのだと舛本氏は語られた。

またレガシーという言葉にも触れられた。レガシーは「先人達の遺産」を意味し、オリンピックでは後世に残せるものとして、交通などのインフラやスポーツ設備などを指すことが多い。
今回私達はどのようなレガシーを残すことができるのか。舛本氏は、小平奈緒選手が見せたようなフェアプレー精神や互いを認め合う心、そういった「ヒューマン・レガシー」こそが最も大きいのではないかと話された。
オリンピック・パラリンピックについて表面的なものではなく、本質や真の意義について深く考えされられる講演であった。

 

■2部 パネルディスカッション
パネルディスカッションではゲストのお二人と現役大学生二名とがパネラーとなってディスカッションを行った。大学生の1人は、2020年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけとして共生社会の実現を目指す学生プロジェクト「Go Beyond」の共同代表である青木明衣さん。もう1人は「学生団体ツナグ」に所属されており、<人をつなぐ><国をつなぐ>という2つのテーマをもとに活動している村上玲維さんが参加された。

その中で印象的だったのは多様性と調和についての話だ。
ゲストの高田氏が多様性について語られた。単に色々な人がいる、というのではなく色々な人がいることが普通のこととしてとらえられることだと。
パラリンピックの選手村では歩き方1つにしても、車いすの人もいれば義足の人もいる。食堂に行けば、両手で食器を持つ人もいれば片手で食べる人、足で食べる人もいる。パラリンピックの選手として参加したとき、多様であることが「当たり前」という空気を初めて感じた。パラリンピックに関わることで多様性とは何かを感じてもらえると思うと。

議論が進む中で、多様性は大切だがそのままではバラバラのままだから、調和がなされることが重要であるという話が出た。どのようにしたら調和がなされるのか。仕組みを作ることが重要だと。
大学生からは、ただ同じ場所にいるだけではなく相手を思いやる心を持った時、互いに助け合って平和をなすことができるのではないかという意見が出て参加者の多くが頷いていた。

質疑応答では、高田氏がその人生観を語られた。高田氏は、人のために夢や目標を考え実現するということを大切にしているという。人はいつか死ぬから、私が伝えていることを受け継いでくれるような人を作りたいとその思いを語られた。

最後に舛本氏は、オリンピックムーブメント(オリンピズムの考え方を世の中に広げる活動を指す)について語られた。東京で五輪開催が決定したときから、オリンピアード(オリンピック開幕式から次のオリンピック開幕までの4年間を指す)は始まっていると。今回、競技大会が仮に中止になったとしてもオリンピアードとしては数えられる。これを理解すればやることはいっぱいあるのではないかと。参加者からはオリンピアードが始まっていることを知らなかったと驚く声が上がった。

 

■3部 参加者同士のグループワーク
最後は参加者が各分野に分かれてディスカッションを行った。
分野はそれぞれ、「スポーツと芸術」「オリンピック・パラリンピック教育」「共生社会」「SDGs」「ボランティア」。
各グループにはゲストも入って一緒に議論に参加した。
議論には「①私達が目指す目標」、「②今私達ができること」の2つのテーマが設けられた。

各グループから多くの意見が出たが、共通していたのは「学び」と「発信」だった。
今回の企画に参加して多くの気づきを得たからこそ、学ぶ必要があると感じた参加者が多いようだ。またすべてのグループで、自分達だけでとどまるのではなくSNSによる発信やイベント開催など、自ら発信し周りに影響を与えることが重要だという意見が出たのが印象的だった。

最後に舛本氏がリオ・パラリンピックのCM動画を見せてくれた。足でスティックを掴んで超スピードでドラムを叩いたり、ハンドルを操作してドラフト走行をきめたり、車いすに乗った人がリレーやフェンシングをしたりといった動画である。この動画が話題になり、リオではパラリンピックに人が押し寄せたそうだ。
しかし舛本氏は、動画の最後にでてくる「WE’RE THE SUPERHUMANS(私たちは超人)」という言葉に言及し、この動画でさえも彼らが「超人」と表現されており、多様な人たちがいることが【普通である】と認識されるにはまだまだ遠いと話された。

 

■イベントを終えて
講演会を通して、オリンピック・パラリンピックの意義について改めて深く考えることとなった。Auniversityが掲げる「make yourself,move the world」というスローガンには、1人1人が自分自身を英雄につくり、世界を動かしていこうという想いが込められている。まさにオリンピズムの精神は私達が目指すところと通じており、この精神を後世に伝えていきたいと感じた。
また今回非常に良かったことがある。参加者全員が当事者意識をもって議論に参加し、今自分たちに何ができるのかと真剣に議論を交わしていたことだ。日々の生活の中で誰かとこうした意見を出し合う機会は少ない。沢山の意見が出る中で、自分でも無意識に持っていた固定観念や偏見に気が付くことができた、という声もあった。
これからもAuniversityは多くの人が学びと気づきを得られる機会をつくっていく。