4/17、池袋・生活産業プラザで、卓球の西村卓二監督をお呼びして、セミナー「福原愛を育てた名監督が語る、自分の才能の伸ばし方」を開催した。
西村監督は2001年日本女子ナショナルチーム監督に就任、弱冠14歳の福原愛選手を日本代表に初抜擢し、心身共に世界で闘えるトップアスリートへと育て上げたことで知られる指導者であり、また当時中国の帰化選手中心だった日本代表を一新し、2004年世界選手権で日本を銅メダルへと導いた名将だ。
この日、都内の大学生を中心に集まった100名の観衆を前に、「自分の才能の伸ばし方」について語っていただいた。会場には現在監督を務める東京富士大学女子卓球部員16名も参加し、監督は開口一番の挨拶で「普段トレーニング中に話していることと、こうして講演会で話している内容が食い違ったらいけない。だからこの講演は僕にとってチャレンジなのです」と語り、講演は始まった。
卓球の難しさについて、「選手が打つピンポン玉の球速は時速170~180にも及ぶため、自分がボールを打った次の瞬間にはもう相手からのボールが返ってくる。そのため、ボールを打つ前にどういう玉が次に来るか考えてなければならない」と語り、その難しさを「チェスをしながら100メートルダッシュをするようなもの」と表現した。戦いの舞台である卓球台の長さはわずか270センチ。対戦相手の息遣いや表情を間近で感じる中、シングルの場合、プレーヤーは自分一人。自分を助けてくれる仲間はいない。そのため、相手の気迫にも屈しない、強い精神力が競技者に求められるのが卓球の特徴だ。
卓球の指導において、監督が大事にしていることは「毎日1ミリの成長」だという。そのために選手に進めているのが、日々の練習で感じたことは欠かさずメモを取ること。練習の中で感じた小さなヒントが積み重なった時に、成長に繋がるという。小さいことを軽視すると大きなことを失ってしまう。最終的にはウサギに勝った亀のように、1日1ミリずつ成長すればいいわけで、競技に限定して言い換えれば、それは「基本練習をしっかりすること」だ。些細なことをしっかりしていくことで、大きなものを得られるという。
また、ライバルを作ることも大事だと語った。自分にとっての最大の敵は「自分自身」だから、自分で立てた約束は必ず守ること、そして自分の信じているものを疎かにしてはいけないと強く表現した。
福原愛選手を日本代表に抜擢した際の話では、異例の若さでの起用に対して、多くの批判と反発があったそうだ。その困難な中でも「対立があってこそ進歩する」という信念のもと、自分の行くべき道を進んだという。監督として指導する中では選手からの反発は絶えなかったが、自分には確固たる信念があるからこのアドバイスをしているのだという強い思いを持って導いてきた。自分への厳しいバッシングを通して「リーダーは孤独に耐える必要がある」と学んだという。孤独に耐えるための強い力は自分自身を信じることと、これまでやってきたことに確信を持つこと、また知識も充実させることが大切だとし、「心が技を高め、技が心を高める。これは車の両輪のようだ」と語った。
また監督は人を導く際に「見えないものを見ること」、つまり心を見ることを大切にしているという。「その人のしぐさ、目の輝き、話し方、歩き方を含めた様々なことをみて、この人はどれだけこの物事に対して真剣に打ち込んでいるのかを見破る眼力がリーダーとして必要です」と話された。人間の核心である「心」を育てることに徹底して取り組む監督の目標は、「選手の人生において自分が羅針盤になれるかどうか」で、そのことを日々考え、続けて挑戦していると、その思いを明かされた。
第2部は学生パネラーによるディスカッション。各大学、各部活でキャプテンとして活躍している学生3名が登壇し、監督と激論を交わした。
「キャプテンとして、チームメンバーの心に火を灯すには?」という学生の質問に対して、監督は、「チームは生き物なので、常に同じようなモチベーションでは保てないという覚悟をしておかないといけません。あの人はこういう人だ、という固定観念も捨てなければいけません。日々みんなは変化すると思って、私は選手のその日の顔色をパッと見てかける声を変えています。だからリーダーは指導の引き出しをたくさん持っている必要があります」と答えた。他にも「上手ではない選手で、自分の存在価値が分からなくなってしまった選手にどのような言葉をかけますか?」という質問に対し、監督は「チームの中の存在として、必ずしも競技力が高いだけが貢献ではありません。真摯に練習する姿勢が周囲に好影響を与えることもあります」と返答。学生の質問に、監督は「深いね~、いい質問だね〜!」とおっしゃり、自分の意見をはっきり発言する学生たちの様子に、フロアは多いに盛り上がった。